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私は機械メーカーから特許事務所に転職して弁理士になりましたが、クラッシャー上司の下についてしまったことが原因で、事務所弁理士の道を諦めました。思い出したくないことも多いのですが、特許事務所への転職を考えている人や上司との関係に悩んでいる方の参考になればと思いこの記事を書きます。
クラッシャー上司とは?パワハラ上司との違いを解説
「パワハラ上司」と比べて「クラッシャー上司」という言葉はあまり聞き慣れない方も多いと思います。特許事務所で勤務しており、上司との関係に悩んでいた当時、「クラッシャー上司」という本に出合ったことで、その上司が完全な「クラッシャー上司」であることを確信するに至りました。
クラッシャー上司を端的に言うと「部下を潰しながら出世していく優秀な人」になります。
当時の上司(クラッシャー上司)の特徴を上げていくと以下の通りです。
- 事務所内でもトップクラスの売り上げを誇る優秀な弁理士で所長(事務所)からの評価も非常に高い
- 他人に対する共感性が一切なく、思ったことを「ズケズケと言う」
- 思ったことを「ズケズケと言う」ことに一切の悪気がなく、「お客様のため」、「事務所のため」に正しいことをしていると信じている
- 高い売り上げを誇り、地方オフィスの室長に出世した一方で、私を含め少なくとも2人は部下を潰している
いわゆる「パワハラ上司」は、「悪意を持って他人を攻撃」し、「仕事の出来は普通かそれ以下」なので会社として厳重注意や懲戒処分といった対処を堂々と行うことができますが、「クラッシャー上司」の場合は本人に「悪気はなく」、しかも「仕事がデキる」ので、会社として強い対処をすることが難しいことが特徴です。
実際のクラッシャー上司体験談
特許事務所に入所、本部オフィスで勤務
3年務めた建設機械メーカーを退職し、知財実務未経験の特許技術者として中規模特許事務所に入所しました。入所から2年間は大都市にある本部オフィスで実務を覚え、その後は、妻の実家がある地方都市の地方オフィスに戻って勤務するという話でした。
本部オフィスは弁理士が30名程と人も多くいて新人教育に人が割けることもあり、特許明細書の作成や調査についてしっかりと指導を受けることができ、私自身も日々成長を感じて充実感を感じており、特許事務所に転職してよかったと感じていました。指導担当者を始めとする周囲からの評価も「覚えが早い」と未経験にしてはまあまあよかったと思います。
入所後半年で地方オフィスへ
入所して3カ月程経ったある日、所長から「入所後半年で地方オフィスに行って欲しい」と言われました。当初は本部オフィスで2年勤務する予定で引っ越し等をしていたので驚きや準備に追われましたが、入所から半年後、元々住んでいた地方都市に戻って地方オフィスで勤務開始することになりました。その際に、「地方オフィスで上司になる人は思っていることをズケズケ言うところがあるが、優秀なので食らいついていって欲しい」と言われ、嫌な予感はしていましたが、これまで様々な困難を乗り越えてきたので「食らいついていけばいつか分かり合うことができてなんとかなるだろう」と思っていました。
クラッシャー上司の下につく
地方オフィスは、地方都市にあるビルの一室と小さなオフィスで人も少なく、常勤は上司A(クラッシャー上司)、先輩弁理士B、事務員Cと3名程で、たまに非常勤の方が出勤してくるといった感じでした。
上司Aは大体こんな感じです。
- 指導らしい指導をほとんどしない。それにも関わらず仕事をとりあえずやらせてみて結果物がイメージと少しでも違うと徹底的に詰める。
- 仕事を振るときに具体的なイメージを伝えない。質問したり、途中で経過を報告しようとしても「自分で考えろ」、「途中経過は受け付けない」と突き放す。
- 部下に対する共感性が一切なく、人を傷つける言動(罵倒、解雇をちらつかせて脅す等)を何ら悪気なくする。
- 自分の仕事に一心不乱に取り組み、事務所内でトップクラスの売り上げを誇り、ゼネラルマネージャー(室長)という役職にあるが、自分の仕事のことだけ考えているため部下に対するフォローは一切しない。
詰められながらも前向きに頑張る
そんな感じで、経験半年の私の仕事が上手くゆくはずもなく、地方オフィスに来て1カ月程で上司Aに会議室に呼び出され、「うちは頭のいい人がくるレベルが高い事務所」、「心を入れ替えて欲しい」、「このままではあなたがここにいる意味を所長と話さなければならない」と言われたり、客先に向かう車の中(二人きりで片道1時間)で詰められたりしましたが、このときは、「私に落ち度があるからもっと頑張らなければ」、「挫けずに頑張れば認めてもらえるかもしれない」と思い、歯を食いしばって仕事に取り組みました。また、弁理士資格を取れれば状況が好転するかもしれないと思い、プライベートの時間を削って弁理士試験の勉強にも取り組みました。
限界が来て心が折れそうになる
しかし、地方オフィスに来てから数カ月後の年度末評価面談で、
- 「これまで色々な人を指導したがあなたが最もひどい」
- 「他の人には何か一つは良い点があるが、あなたには一切それがない」
- 「あなたは能力が低い、転職サイトに登録して他の仕事を探しては?」
と言われ、さすがに心が折れそうになりました。
さらに、それから2カ月程経って再び上司Aに呼び出され、「あなたの働きがあまりにひどいので本部オフィスに戻すことを所長に相談する」と言われました。
妻と一緒に本部オフィスがある大都市に引っ越しして、半年後に妻と一緒に地方オフィスがある地方都市に引っ越しをしたので貯金も十分になく、ここで再び本部オフィスに戻されることは妻にさらなる負担を掛け、経済的な面でも生活が成り立たなくなることになるので、翌日、所長に電話をして地方オフィスに残れるように必死で頼みました。それもあってか、引き続き地方オフィスで業務を行うことになりました。
さらなる状況の悪化
その後、提出物について、自分のイメージと違うところを探し出して、それについて反省文を書かされることが増えてきました。毎回、「時間がないとか忙しいといった言い訳は聞きたくない」ので、1~2週間かけて考えてこいと指示されました。
そのため、様々な業務改善の文献を読んで、真剣に反省文を作りましたが、突き返されるばかりでした。しかも、その1~2週間、他の仕事を一切させてもらえないので、不毛な時間がただ過ぎていくばかりで、「他の人は必死で仕事をしているのに、反省文ばかり書いている自分には役割や仕事がない」と思うようになり精神的にきついものでした。
さらに、「達成不可能な目標(課題)」を与えて、それが達成されるまで一切、実業務をさせないとされました。達成不可能なこととはいえ、取り組むしかないので必死で取り組みましたが、報告しても突き返されるだけで、なんと3カ月以上も何も実業務をさせてもらえないといったこともありました。
さらに、「親からしっかりと教育を受けていない」、「私には手に負えないのでカウンセリングを受けた方がいい」と言われたりして、さらに追い詰められていました。
反撃と弁理士試験合格
さすがに、「親からしっかりと教育を受けていない」、「私には手に負えないのでカウンセリングを受けた方がいい」と言われたことで、「反撃してこないので何を言ってもいい人と思われている」、「反撃しない限り永遠にこれが繰り返される」と思い、会議室に呼び出され、詰められそうになったときに、
- あのような発言はとても傷つくし、「パワーハラスメント」に該当する
- あのような発言は全てメモに記録して証拠として残している
- 家族にも相談している
と伝えました。ポイントとしては下記を意識しました。
- 「発言に傷ついている」ことをはっきりと伝える。「パワーハラスメント」と略さずに伝えることで言葉に重みを持たせる
- 「証拠を残している」と伝え、面倒なこと(極端に言えば裁判等)が起こりそうな危機感を与える
- 外部の人と協力していることを伝え、面倒なことが起こりそうな危機感を与える(外部の協力者には面倒な人がいるかもしれないと思わせる)
すると、普段は冷静で理詰めで追い詰める上司Aは、思わぬ反撃に明らかに焦りを見せ、優秀な弁理士とは思えないようなけんか腰で言い返してきました。
- 証拠を残して足元をすくおうとしているなんて、なんて腹黒いんだ
- 過去にも訴訟になったことがあるから、やってみろよ
- 知財業界は狭いからあなたの悪評が広まるぞ
- あなたを危険人物として所長に報告する
そこで私は、「本当に私が腹黒いのであれば、直接言わずに所長に密告している」、「こういった問題は、所長を巻き込まずに当事者同士の話し合いで解決するべきだ」と言い、沈静化を図りました。
その後、上司Aは、「メンタルが弱いからだ」、「私は地方の三流大学を出て一流卒の上司から罵倒されたこともあった」と言ってきたことで、上司Aは、過去にコンプレックスを抱いており、努力して弁理士として成功したことにプライドを持っていることが彼を「クラッシャー上司」にしたのだと確信しました。
翌日、会議室で上司Aは所長とオンライン打合せしており、このことを所長に伝えて2人で笑いあっている声が聞こえてきました。所長は、上司Aが過去に部下を1人潰してもう1人潰そうとしているのに実に能天気なものでした。
とはいえ、丁度同じ頃に、弁理士試験に合格することができました。これもあって、今後状況が好転するのではと希望も見えてきました。
仕事を干される
その後、クラッシャー上司からの罵倒は少し収まりましたが、反撃したことで完全に「面倒な奴」と思われ、事実上仕事を干されてしまいました。
- 実業務を与えずに達成困難な課題を与える
- 私が課題に取り組んで、提出したりアドバイスを求める
- 中身をほとんど見ずに2週間考えてこいと突き返す
- 以下、突き返し続けて一切取り合わない
当時、私は、試練を与えて鍛えられていると信じて、書籍を読み漁ったり、他の人にアドバイスもらうなどしながら懸命に取り組みました。いわば、異常事態を受け入れている洗脳状態です。
また、所長に相談して、仕事を与えてもらったり、本部オフィスの新人教育担当の先輩弁理士に特許明細書の添削を依頼したりして、事態の打開を図りました。
また、先輩弁理士に相談していく中で、上司Aは、私の前任者をメンタル不調に追い込んで退職させていたこともわかりました。
さらに、上司Aから完全テレワークを指示されました。名目上、「課題に集中させるため」とのことですが事実上「人間関係からの切り離し」でした。出勤しないと所内での立場が悪化すると思い、度々出勤を申し出ましたが突き返されるだけでした。
しかし、弁理士登録したものの実業務がほとんどできず、特許明細書作成や中間処理といった弁理士業務の実務能力が身につかないまま半年以上の時間が経過してしまいました。
所長に見限られ、転職を決意
半年以上、ロクに売り上げも上げられず、成長らしい成長もないため、気づかないうちに事務所内でも立場は悪化しており、所長から「現状と今後について話がしたいと」言われ、嫌な予感がしました。
その予感は的中し、所長から以下のことを告げられました。
- 指導者の教えを忠実に守る段階であるにも関わらず「業務を自分本位で行っている(例、勝手に先輩弁理士に明細書添削を依頼した)」
- そもそも特許事務所の業務に向いていないかもしれない
- 上司Aの他、新たに他のオフィスの弁理士を指導に加え、長くて1年間、「特許事務所の業務に向いているか否か検討する」
所長のこれらの発言で、上司Aだけではなく、所長と事務所にも強い不信感を抱きました。そして、以下の理由から退職を前提として転職活動を始めることを決意しました。
- クラッシャー上司Aの下で歯を食いしばって踏ん張ったり試行錯誤した結果が、「特許事務所の業務にむいていない」で片づけられたこと
- 解雇に向けた包囲網ができており、狭まりつつある(解雇のために形式的に教育の機会を与えていることは明らか)
- 1年以内に退職勧奨や解雇が行われる予定かつ回避することが困難。仮に新たな指導者が肯定的評価をしてくれたとしても上司Aの下にいる以上大勢は変わらないこと
転職活動の成功と退職
子供が生まれたこともあり、長く働ける安定性から一般企業の知財部を希望して転職活動を行い、詳細は割愛しますが、無事に転職先が決まりました。
上司Aと所長に退職の意思を伝えたときはとても晴れやかな気分でした。上司Aも所長も厄介払いできて清々しているようですが、事務所の悪評を広められては困るとばかりに面談では善人面してきて内心腹立たしかったのですが、トラブルを起こして退職すると後々面倒なので「事務所の求めるレベルに達しなかった」と適当に言って2年半務めた特許事務所を退職しました。
クラッシャー上司への対策(自分がターゲットの場合)
以上、私の体験からもわかる通り、クラッシャー上司はメンタルとキャリアの両方を破壊します。書籍「クラッシャー上司」においては、クラッシャー上司の特徴やその心理について詳しく解説されていますが、ここでは、運悪くクラッシャー上司にあたってしまったときの対策について私なりに述べていきます。
とにかくクラッシャー上司から離れる
本記事や書籍から上司が「クラッシャー上司」であることが確実であるなら、すぐに離れることを検討すべきです。クラッシャー上司は「食らいついていけばいつか分かり合える」ような相手ではありません。その前にメンタルを潰されるか、反撃しても仕事を干されてキャリアを潰されるかのいずれかです。とはいえ、先ずは以下の手順で解決できないか試みるとよいと思います。それでも解決しなければ、転職を考えるべきです。クラッシャー上司を放置している会社や組織にも問題があるためです。
クラッシャー上司のことを知る
書籍「クラッシャー上司」においては、クラッシャー上司の特徴やその心理について解説されています。クラッシャー上司について知ることで、人によってはクラッシャー上司の発言を「コンプレックスを抱えた可哀そうな人」の発言として聞き流すことができるかもしれません。しかし、そういった発言はやはり傷つくものなので限界はあります。
上司の上司、社内外の窓口に相談する
他の人に相談することで、クラッシャー上司が上から注意を受けたり、当事者のいずれかが配置転換になる可能性はあります。しかし、クラッシャー上司は仕事がデキるため、下手に上司の上司に相談すると相談者自身が「問題社員」として認定されてしまう可能性はあります。社内でトップクラスの成績を誇るクラッシャー上司であるなら会社としても強く言えないのが実情です。
パワーハラスメントであることをはっきりと伝える
クラッシャー上司が正しいことをしているつもりで人を傷つける発言を平気でするので、「パワーハラスメント」であるとはっきり伝えることも手です。しかし、クラッシャー上司との正面対決はかなりハードルが高く、成功したとしても「仕事を干されたり」、「社内での立場が悪くなる」おそれがあります。
クラッシャー上司への対策(会社側の対策)
部下をもたせない
社員が部下を何人も潰しているクラッシャー上司であるなら、部下をもたせてはいけません。クラッシャー上司は優秀なので一緒に仕事をさせれば鍛えられるだろうと甘く考えてはいけません。虎が強いからといって、強くしたい人を虎と同じ檻に入れることと同じです。強くなるどころか恐怖で委縮していずれ嚙み殺されるのがオチです。
一匹狼として活躍させる
クラッシャー上司は仕事がデキるので、一匹狼として活躍してもらうのがよいと思います。プライドを傷つけないためにも役職は形式的に与え、実質的には部下を管理をさせないといった対応が考えられます。
まとめ
私は運悪くクラッシャー上司の下についてしまいました。これでわかったことは、クラッシャー上司の下で頑張ってもメンタルを消耗するだけで何も得るものがないということです。クラッシャー上司が原因でメンタルやキャリアを潰される人達が少しでも減ることを願います。
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